ブッポウソウの鳴き声は別の鳥?「ゲッゲッ」と鳴く本当の姿と歴史
初夏の山深い森に響き渡る「ブッ・ポウ・ソウ」という澄んだ美しい鳴き声。仏教の三宝(仏・法・僧)を称える瑞鳥として、日本で平安時代の昔から愛されてきた鳥の正体に、実は1000年以上に及ぶ壮大な「取り違え」があった事実をご存じでしょうか。森の奥で神聖な声を響かせる鳥と、瑠璃色の美しい羽を羽ばたかせる鳥は、全く別の種類だったのです。
現在では「ブッポウソウの鳴き声」として知られる神秘的な響きの真相や、本物のブッポウソウが発する「ゲッ、ゲッ」という濁った鳴き声の理由、そして昭和初期に起きた歴史的解明ドラマまで、知られざる生態系と識別のポイントを詳しく紐解きます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:「ブッ・ポウ・ソウ」と鳴く鳥の正体は小型フクロウのコノハズクであり、本家ブッポウソウは「ゲッ、ゲッ」と濁った声で鳴く。
- 要点2:千数百年の誤認は、1935年(昭和10年)の鳳来寺山でのラジオ生中継をきっかけに劇的な形で解明された。
- 要点3:絶滅危惧種である本家ブッポウソウは東南アジアから飛来する貴重な夏鳥で、現在は各地で保護活動が進む。
【歴史の真相】「ブッ・ポウ・ソウ」と鳴く鳥の正体はコノハズクだった?
古来、日本の古典文学や和歌において「霊鳥」として崇められてきたブッポウソウ。夜の森で「仏・法・僧」と三宝を唱えるように鳴く声は、修験者や貴族たちの心を捉え、神聖な存在として記録に残されてきました。しかし、この風流な「ブッポウソウの聞きなし」には、長きにわたる驚くべき事実が隠されていました。
夜の帳が下りた森の中で美しい鳴き声を響かせていたのは、美しい青緑色の羽を持つ鳥ではなく、木の幹に同化する褐色の羽毛をまとった小型のフクロウ類、コノハズクだったのです。コノハズクは夜行性で姿を見せない一方、昼間に見かける美しい瑠璃色の鳥が「あの素晴らしい声の主だろう」と信じ込まれ、姿と声が1対の存在として結びつけられてしまったのが誤認の始まりでした。
【声の仏法僧と姿の仏法僧】昭和10年の大発見!正体が判明したドラマチックな経緯
この千年以上続いた勘違いに終止符が打たれたのは、1935年(昭和10年)6月7日のことです。舞台となったのは、愛知県新城市の霊峰・鳳来寺山でした。
当時、日本放送協会(NHK)が鳳来寺山から「ブッポウソウの鳴き声」を全国に向けてラジオ生中継を実施。電波に乗ったその鳴き声を聞いた愛知県警津島警察署の署長神谷成道氏が、「自分が飼育しているコノハズクの鳴き声と完全に同一である」と気付きました。その後、山中で実際に鳴いている鳥を捕獲・確認したところ、正体がコノハズクであることが学術的にも証明されたのです。
この世紀の大発見を経て、鳥類の世界では従来の鳥を「姿の仏法僧(ブッポウソウ目ブッポウソウ科)」、実際にあの声で鳴くコノハズクを「声の仏法僧(フクロウ目フクロウ科)」と呼び分けるようになりました。学名や和名の変更はされなかったため、今でも名前の由来と実際の声がねじれたまま定着しています。
【本当の鳴き声】本家ブッポウソウは「ゲッゲッ」と濁音で鳴く!昼夜の行動と生態
それでは、青い羽を持つ本家「ブッポウソウ」は普段どのような鳴き声をあげているのでしょうか。静謐な森をイメージしていると、その実際の声に驚かされることになります。
本家ブッポウソウの鳴き声は、「ゲッ、ゲッ」「ジャッ、ジャッ」という極めて濁った低音のダミ声です。カラスやカケスにも似た強い濁音で、縄張りを主張する際や繁殖期のアピール、威嚇の場面で頻繁に発せられます。決して「ブッ・ポウ・ソウ」とは鳴きません。
また、行動パターンの違いも明確です。コノハズクが夕暮れから深夜にかけて活発に鳴く夜行性であるのに対し、ブッポウソウは昼行性の渡り鳥です。日中の明るい時間帯に高い木の梢や電線に止まり、空を飛ぶ甲虫類やセミなどを素早くフライングキャッチして捕食します。
【見分け方と識別】ブッポウソウ科とフクロウ科コノハズクの決定的な違い
野外観察やバードウォッチングで両者を識別するポイントは、鳴き声だけでなく外見や生息環境にもはっきりと現れています。
姿の仏法僧(ブッポウソウ):
体長はおよそ29cm前後でハトほどの大きさ。頭部は黒褐色ですが、胴体や翼は鮮やかな光沢のある青緑色(瑠璃色)をしています。飛翔時には翼の初列風切羽に白斑がくっきりと浮かび上がり、嘴(くちばし)と足が鮮烈な赤・朱色をしているのが最大の特徴です。
声の仏法僧(コノハズク):
体長はおよそ20cm前後と手のひらサイズで、日本に生息するフクロウ類の中で最も小型の部類に入ります。全身が樹皮そっくりの複雑な茶褐色や灰褐色のまだら模様で覆われており、頭部には小さな羽角(耳のように見える羽)があります。昼間は木の洞や枝に擬態してじっと身を潜めています。
【生息地と時期】絶滅危惧種の夏鳥ブッポウソウに出会える季節と観察ポイント
ブッポウソウは、毎年5月上旬頃に越冬地である東南アジア(インドネシアやマレー半島周辺)から日本へやってくる夏鳥です。本州、四国、九州の山間部や里山に飛来し、7月下旬から8月にかけて子育てを行い、秋風が吹き始める9月下旬には再び南方へと旅立ちます。
かつては日本全国の社寺林や巨木のある里山で普通に見られましたが、森林伐採による大木の減少や農薬散布による餌(大型昆虫)の激減に伴い、生息数は激減。現在は環境省のレッドリストで絶滅危惧IB類(EN)に指定されています。
現在では、岡山県吉備中央町、広島県三次市、長野県天龍村など、地域ぐるみで専用の巣箱を架設し、手厚い保護・繁殖活動が行われている拠点でその貴重な姿を観察することができます。
【音声・音源】鳴き声(mp3)の確認方法と自然観察での聞き分けのコツ
野外に出かける前に実際の鳴き声を確認しておくと、現地での聞き分けが格段にスムーズになります。自治体の野鳥保護アーカイブや野鳥図鑑アプリ、専門サイトのmp3音源をチェックするのが確実です。
森を歩く際は、以下の時間帯と声の質を意識して耳を澄ませてみましょう。
・昼間に高い梢から聞こえる場合:「ゲッ、ゲッ」「ビャッ、ビャッ」と濁った力強い鳴き声であればブッポウソウの可能性が高く、枯れ木のてっぺんや電柱の先を探すと見つかりやすい傾向にあります。
・夜間に静かな山林から響く場合:「ブッ・ポウ・ソウ(またはキョッ・キョッ・キョー)」と規則正しく澄んだ金属的な3音で繰り返される声であれば、木の茂みに潜むコノハズクです。
【ブッポウソウの鳴き声】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:なぜ1000年以上も鳴き声の主を勘違いし続けていたのですか?
A1:コノハズクが夜間に鳴き姿が見えないのに対し、ブッポウソウが昼間に目立つ美しい姿で飛び回っていたため、昔の人々が「あの美しい鳥が夜にありがたい声で鳴いているに違いない」と思い込んだことが最大の理由です。
Q2:コノハズクの鳴き声は本当に「ブッ・ポウ・ソウ」と聞こえますか?
A2:人間の耳には「ブッ・ポウ・ソウ」という3連音として聞きなしされてきましたが、鳥類学的な実際の音節としては「キョッキョッキョー」あるいは「クックッ・クォー」に近いトーンで発声されています。
Q3:ブッポウソウの鳴き声を聴くのに適したベストな季節はいつですか?
A3:繁殖期にあたる5月中旬から7月上旬が最も活発です。求愛や巣立ち雛への給餌の時期は親鳥が頻繁に警戒音や交信音を出すため、「ゲッゲッ」という特徴的な声を耳にする機会が増えます。
まとめ:神秘の鳥ブッポウソウの真実を知り自然の息吹を感じよう
「ブッ・ポウ・ソウ」という美しい聞きなしから始まった歴史のドラマは、人間と自然の関わりや観察眼の進化を物語る興味深いエピソードです。姿の美しさで魅了するブッポウソウと、幽玄な声で森を包み込むコノハズク。それぞれが異なる魅力を持ち、日本の豊かな里山生態系を支える大切なピースです。
絶滅の危機に瀕しながらも、地域の温かい保護活動によって命をつなぐブッポウソウ。初夏の森を訪れる機会があれば、ぜひ耳を澄ませ、木々の間に響く「ゲッ、ゲッ」という力強い生命の鼓動を探してみてください。 (出典: ブッポウソウ の 鳴き声(Yahoo!ニュース))